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【感想】フィリップ・K・ディック『小さな黒い箱』

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実はディックの作品を読むのは初めてでございます。

フィリップ・K・ディックといえばやたらいっぱい著作が映画化されてる超売れっ子で、「好きな作家は?」と聞かれてとりあえずディックと答えておけば間違いないというくらいのSF界の偉い人なんですけど、そこまでメジャーで「読んでて当然」みたいな存在になると逆にタイミングを見失ってしまって、結果的に「そのうち読みたいけどなんとなくまだ読んでない作家」のカテゴリーに長いこと入っていたわけです。俺の中で。

あとはまあディック作品の紹介文でしばしば形而上学的テーマがうんぬん的な文言が出てくるのも個人的には不快指数高い。なんだよ形而上学的テーマって。んなこと言われてもビタイチ興味わかねーよ。

ただまあこういう「読んだことないけどだいたい知ってる」みたいな状態がいつまでも続くのはよくねーなと薄々感じていたタイミングでこの短編集が本棚から出てきたので、特にたいした理由もなくさくっと読んでみました。

なので、実はこの作品がシリーズ全6冊中の5冊目だったということに読み終わったあとで気づいた模様。えらく中途半端なところから入ってしまったぜ…。


収録作品は全11篇。以下、ネタバレあり。

小さな黒い箱
謎の組織によって供給される〈共感ボックス〉。別の場所にいる別人の思考につながる金属の黒い箱に魅入られた人々と、それを取り締まろうとする役人との攻防。おもしろかった。

輪廻の車
文明衰退後の世界。輪廻を信じてせっせと修行に励んでいた宗教の導師が、来世は蝿に転生するといわれてショックを受ける話。おもしろかった。主人公のエロ導師が俗物で、ひたすら己の欲望に忠実なのが良い。

ラウタヴァーラ事件
宇宙ステーションの事故で瀕死の重傷を負った地球種族の女性技術者が、異星人に脳機能のみ蘇生させられた結果、脳内で救い主と接触する。果たしてそれは彼女が見ている幻覚か、それとも来世に開いた窓なのか、という話。おもしろかった。プラズマ生命体の異星人による報告書という体裁なのが、独特のユーモアを感じさせて良い。

待機員
大統領をやってたホワイトハウスのコンピューターが壊れて、修理が終わるまでの大統領職務代行に選ばれた無職のオッサンの話。おもしろかった。

ラグランド・パークをどうする?
「待機員」の続編。おもしろかった。歌詞がそのまま現実になるという無自覚なサイ能力を持ったフォークシンガーが良い。

聖なる争い
防衛システムを管理するコンピューターが突然自国内を核攻撃しようとするが、攻撃の理由がわからない。攻撃目標となっているのは風船ガムの自販機を売ってる男。修理に呼ばれた技術者がコンピューターの異常の原因を調べようとするのだが、という話。おもしろかった。進化したAIが下した判断の根拠は、人間には理解できない、というのは最近の研究でもよく問題になっているらしい。

運のないゲーム
巡業にやってきたサーカスの一団との賭けに勝利して、火星の開拓民が手に入れた商品とその結末。おもしろかった。現代の不安商法なんかにも通じるマッチポンプ感が良い。

傍観者
清潔な見た目を強要する清潔党と自然な姿のまま生きようとする自然党の対立と、どちらにも属したくない主人公の葛藤。おもしろかった。過剰な清潔志向や、極端から極端に振れる世論などは極めて現代的だと思う。

ジェイムズ・P・クロウ
人間よりも優れたロボットたちに支配された社会で、ロボット以上の成績を上げて出世していく人間の話。おもしろかった。

水蜘蛛計画
実在のSF作家たちが多数登場する楽屋オチっぽい作品。恒星間飛行の技術的問題を解決するためにポール・アンダースンが未来に連れてこられる話。おもしろかった。なんとなく藤子・F・不二雄のSF作品っぽい雰囲気がある。未来世界の描写とか。

時間飛行士へのささやかな贈物
時間旅行の失敗によって、元の時間に戻った際の死が確定している時間飛行士たち。ループする時間の中で失敗の原因を調べてやり直そうといる、と思われた時間飛行士たちの目的は実は、という話。おもしろかった。


さすがに人気作家の短篇傑作集というだけあって、どの作品もおもしろかったです。

今回収録されてるのは宗教や政治を扱った作品がメインということだけど、特に難解な部分はなくて、頭のよくない俺でもちゃんと最後まで読めた。そこはかとなくギークの臭いが漂っているというか、うだつのあがらないひねくれたオッサンが斜に構えた目で世の中を見ている感じがあって、そういうのが好きな人はきっとハマるんだろうと思う。なんというか、こいつを読んでるとモテなくなりそうな感じがスゴイ。

ともあれこれで「ディック? 読んだよ」と胸を張って言えるようになったので、すげー爽やかな気分になってる。特に理由もなく警官のあごをぶんなぐってぶっ殺された「傍観者」の主人公のように。

小さな黒い箱 (ディック短篇傑作選)

小さな黒い箱 (ディック短篇傑作選)